寗成乳虎(巻之一)
原文


前漢寗成。南陽穰人。
以㆓郎謁者㆒。事㆓景帝㆒。好㆑氣。為㆓小吏㆒。必陵㆓其長吏㆒。為㆓人上㆒。操㆑下急如㆑束㆓濕薪㆒。
為㆓中尉㆒。
其治效㆓郅都㆒。其廉弗㆑如。
武帝即位。徙為㆓内史㆒。
外戚多毀㆓其短㆒抵㆑罪。
後上欲㆔以為㆓郡守㆒。
公孫弘曰。
臣為㆓小吏㆒時。成為㆓濟南都尉㆒。
其治如㆓狼牧㆒㆑羊。不㆑可㆑使㆑治㆑民。
上乃拜為㆓關都尉㆒。
歳餘。關東吏隷㆓郡國㆒出㆓入關㆒者。號曰。
寧見㆓乳虎㆒。無㆑値㆓寗成之怒㆒。
其暴如㆑此。
書き下し文

前漢の寗成(ねいせい)、南陽穣(なんようじょう)の人なり。
郎謁者(ろうえっしゃ)を以て景帝(けいてい)に事(つか)へ、気(き)を好み、小吏(しょうり)と為らば、必ず其の長吏(ちょうり)を凌(しの)ぎ、人の上と為らば、下を操(と)ること急にして、濕薪(しっしん)を束(たば)ぬるが如し。
中尉と為る。
其の治は郅都(しつと)に効(なら)ふも、其の廉(れん)は如(しか)ず。
武帝の即位するや、徒(うつ)りて内史(ないし)と為る。
外戚(がいせき)、多く其の短(たん)を毀(そし)り罪に抵(いた)る。
後、上(じょう)以て郡守に為さんと欲す。
公孫弘(こうそんこう)曰く、
臣、小吏(しょうり)為(た)りし時、成(せい)、済南(せいなん)の都尉(とい)為(た)り。
其の治、狼の羊を牧するが如く、民を治めしむ可からず、と。
上、乃ち拝して関都尉(かんとい)と為す。
歳余(さいよ)、関東の吏(り)、郡国(ぐんこく)を隷(れい)して関に出入する者#1#2、號(ごう)して曰く、
寧(むし)ろ乳虎(にゅうこ)を見るも、寗成(ねいせい)の怒りに値(あ)ふこと無かれ、と。
其の暴なること此(かく)の如し。
現代語訳
前漢の寗成(ねいせい)は南陽穣(なんようじょう)の人である。
郎謁者(ろうえっしゃ)として景帝(けいてい)に仕え、男気を出すを好み、下に在れば必ずその上司を押しのけ、上司となれば部下を締め付けること湿った薪(たきぎ)を束ねるが如くに厳酷であった。
中尉となった。
その治め方は郅都(しつと)にならったが、その廉直さは足らなかった。
武帝が即位すると、遷(うつ)って内史(ないし)になった。
外戚(がいせき)の多くがその欠点を非難し、罪に触れた。
後に武帝は郡守に任じようとした。
公孫弘(こうそんこう)が言った。
私がまだ小役人であった時、寗成(ねいせい)は済南(せいなん)太守の下役でした。
その治め方は狼が羊を牧すが如きでしたから、民を治めさせるには相応しくありません、と。
武帝はこれを受けて関都尉(かんとい)に任じた。
一年ほど経つと、関東の官吏で各地に検閲のために関所を出入りする者達はこぞって言った。
むしろ子守りで高ぶる虎に出会うとしても、寗成(ねいせい)の怒りにあうよりはましだ、と。
その暴虐なること、このようであった。
- 備考
- #1「群国に隷して」と訓じる場合もある。
この場合は、群国の長吏の隷属となって関所を出入する小吏の意。 - #2漢書には「関吏の群国を税肄して関を出入する者」に作る。税肄は検閲の義。